暑くなっていく予感のする陽射しを浴びながら藤真は、う〜んと伸びをした。
それから。
「借りるぞ」
返事などは待つつもりはないらしい。
何か言おうとした花形の口元は、声を発するのをやめた。
藤真がその肩に寄り添うようにして、やがて聞こえてきた寝息に言葉ではなく笑みを浮かべた。
藤真がただの一人の高校生になれる瞬間だと思うのだ。
一人で背負いきれないほどの重荷を抱えても、藤真は変わりなく藤真であり続けてはいるけれど。代わってやることもできず。
ならば。
花形は自分の立ち位置の中から、藤真のためのささやかであっても何も気にしないでいられる時間を大切にしてやりたいと願う。
昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴るまで、後15分くらいしかない。
そんな短い時間でも、藤真は熟睡しているのか気持ちよさそうに寝ている。
合間には夢を見ているのか、
「ん…んん…」
何かを言いかけているような。それでも言葉にはならない。小さな笑みだけが残るだけ。
今見ている夢がどんなものでも、藤真にとって良い夢であってほしい。
試合をしているなら、勝っていていてほしい。
練習をしているなら、あの綺麗なフォームでシュートを決めていてほしい。
ランニングなんかしていたら、一番前を走っていてほしい。
もしも、恋をしているのなら。
夢の中で恋をしているのなら、幸せな恋であってほしい。
花形はそこまでを願ったあと、肩に寄せる藤真の髪を頬に感じるように頭を寄せかけた。
五月の風はさわやかに吹いている。
寄り添う二人を撫ぜながら包み込むように、そうして吹き流れていく。
さわやかに。