三洲はまだ肌寒い朝早く、生徒会室へと向かっっていた。
 約束をするつもり等なかった。たかが真行寺じゃないか。
 どんなに恨めしそうな目で見られようと、主導権はいつも自分の手の中にある。何時だってそうだった。それなのに。
 この頃の俺は少し変なのだ。
 歩く道すがら、そんな事を三洲は考えていた。

「そんな暇はない」
 冷たく言い放ったその一言に明らかに色を失っていく真行寺の瞳から目が離せず。何故か痛む心に驚きながら、口にした言葉が、
「明日の朝早くに生徒会室に来れるなら」だった。
 真行寺は、了解とばかりに頷いて270号室から出て行った。

 振り回しているはずが、いつの間にか立場が逆転している。
 こんなはずじゃなかったのに。やっぱり変なのだ。三洲自身、自分の心が自由にならなくなっている。
 ならばいっそ、流されてみてもいいかもしれない。自覚がある分、何かにしがみつく時、みっともなくはないだろう。


 生徒会室へ続く廊下に差し掛かった時、向こうにしゃがみ込んでいる奴が見える。真行寺だろう。
 そう思うだけで胸がざわめく。羽音のようにざわめいて落ち着かなくなる。
 三洲はそれが何なのか判っていても、目を逸らさずにはいられない。
 言い訳や理由付けでその正体を覆い隠していても、やはり逸らさずにはいられない。
 ただ、いつまで逸らしていられるか、今の三洲にはもうどうでもいいように思えた。


 三洲を見止めた真行寺がゆっくりと立ち上がる。

「おはよう、アラタさん」
「ああ…」

 交わす言葉は少ない方が良い。
 鍵を開けながら、すぐ側に立つ真行寺の息遣いに耳を澄ませる。それだけで背中が震える。
 ドアを開ける手に真行寺の手が重ねられ。

「アラタさん…」
「まだ、は…」

その先の言葉は真行寺の唇に塞がれてしまって、飲み込まれてしまう。
きつく抱きしめられ、角度を変えながらのキスに、まだ理性を手放すのは早いと思うものの、抗えない身体の方がずっと正直なのかもしれない。
キスの合間に。

「んん…ん…しん…」

鼻にかかったくぐもった様な吐息には、三洲自身さえ知らなかった甘さがあった。
真行寺の唇が頬から首筋へと降りていきながら、抱きしめていた手が下肢の方に延ばされている。
教室の中にも入らずに、ドアに凭れ掛けさせられたままなのに、もう頭の中がぼんやりしてきている。

「真行寺…」
「アラタさん、ごめん…待てない…」

 三洲はベルトを外される音を聞きながら、こんなにも溺れてしまっている自分が。真行寺に溺れてしまっている自分が。不思議で堪らないのに。それなのに、心のどこかでは望んでいたんじゃないかと思う。
 そうでなければ、こんなにも夢中になりはしない。

 ああ…もっと…
 真行寺…もっと…


「真三洲SS企画」参加作品です。前のもそうですが、一発勝負で書いたお話です(^^ゞ
10月21日