それは、一つの…



「ちわーっす!」

 真行寺は何時ものように、多少遠慮しながらも元気よく生徒会室のドアを開けた。

「あ、あれ…アラタさん…?」

 窓際でしゃがみ込んでいた三洲が顔をあげると、
「ああ、真行寺。良いところに来た、手伝ってくれ」
 はいはい、と持っていたデイバッグをデスクの上に置いて、三洲の側に寄っていく。

「窓を開けたら、風で書類が散らばったんだよ。真行寺、悪いが、全部集めてくれるか?」
「良いすけど、アラタさんは?」
「書きかけの書類があるから、そっちをしなきゃならないんだ。集めて貰う書類も――」


 真行寺は考える。
 自分が書類を集めて三洲に生徒会関係の仕事を、とにかく早く終わらせてもらわないと、三洲との甘い時間がとれない。
 せっかくせっかく二人だけの生徒会室。このチャンスを無駄にはできない。


「合点承知!」
 ビシッと親指をたてて、真行寺は所狭しと散らばっている書類を集め始めた。
 三洲はほっとして、ようやく仕事の続きをしようと椅子に座りなおし、
「あ、それから、大事な書類だから絶対に汚すな。丁寧に集めてくれ」
「了解っす」

てか、アラタさん、ぱぱぱぁーっと結構雑に集めてなかったっけ?


 言われたとおり、丁寧に踏んづけて足跡をつけてしまわないように気をつけながら真行寺は、ちらっと三洲を盗み見た。
 何事にも手を抜かない三洲。仕事をしている表情は真剣そのものだった。

 真行寺は思う。
 一目惚れをしたあの日から、もう一年を過ぎた。三洲への想いは弱まるどころか、日々心の中で育っている。
 それは、きっと真行寺にだけに許された特権だと思っている事があるからだ。
 三洲の色々な表情を知っている。何枚も猫を被って人当たりのいい笑顔も、真行寺にだけ見せる容赦ない意地悪な冷たい視線も、真行寺の腕の中で快感に打ち震える瞳も。
 三洲の表も裏も、全てではないにしても、真行寺しか知らない。

 俺って、結構幸せかも…

 三洲への想いを噛みしめながら、せっせと集める。



 それから、どれくらい経ったろうか。
 ぐぅ〜

 真行寺の腹の虫が鳴る。
 三洲が書きかけの書類から顔をあげ。

「もう、そんな時間か?」

 目の前には、空腹と待ちぼうけで疲れ果てている真行寺が情けない顔をしていた。

「アラタさん〜、腹減ったぁ〜」
「そうだな。これ以上は効率が悪そうだから、ここまでにしておくよ」
「よかったぁ〜、飯、行きましょう。早く行かないと、食堂閉まります…」
「食い意地はってる真行寺君の言うとおりだな」
「ひどっ!アラタさんだって、腹、空いてんでしょう?」
「俺はお前ほど食い意地は張ってない」

 さくさくと片づけを済ませた三洲が真行寺に、教室から出るように促す。
 と、その時、三洲が真行寺の腕を引いた。

「な…」

 振り向いて、何?と言おうとした真行寺にキスをした。
 そうして、少々長めのキスが終わると。

「大人しく待ってたからな」
「…アラタさん…」

 ぎゅっと三洲を抱きしめようとした真行寺の腹の虫がまた鳴り、二人の邪魔をする。

「空腹には勝てないな、真行寺は」

 三洲がくすくす笑いながら、真行寺から離れる時、
「今夜、何時ものところで」
「了解っす!」

 三洲と食堂へと小走りに向かいながら真行寺は、今夜、また見るであろう三洲の艶やかな瞳に思いを馳せた。


「真三洲SS企画」参加作品です。
10月31日