消灯前にシャワーを浴びた三洲は、ベッドで寛いでいた。今夜、同室者は不在である。
図書室から未だ借りっぱなしになっている推理小説を、さっさと読み終わらせようとページを捲る。
読み始めて、まだ数分かと言う時。
コンコン…
控えめなノックの音に顔をあげると、真行寺が入ってきた。
「アラタさん…」
視線をまた本に戻し、何の返事もしない三洲に真行寺は苦笑いを浮かべてしまう。
三洲を追いかけるようになって、そろそろ一年が過ぎる。真行寺が祠堂で三洲との間で覚えた事の一つに、拒絶の言葉が発せられない時は一緒に居ても良いという事だった。
真行寺のように積極的な言葉を使わない代わりに、何も言わない事で了承を伝える。
本を読んでいる三洲の横に腰を落とすと、ベッドが僅かに軋む音が部屋に広がる静かな夜。
ページを捲る音に紛れるように、
「葉山に聞いたのか?」
「うん…。葉山さんんがゼロ番に行く前に教えてくれたんだ…」
「そか…」
それきり、部屋はまた穏やかな息遣いがたゆとうて流れる静かな空間になる。
真行寺は、三洲が何を読んでいるのか知りたくて、肩越しから覗いてみる。
互いの呼吸が、そろい合う頃合いを感じ取ると三洲の肩へ顎を乗せる。そっと。
僅かに身じろぐ肩は、けれど、その重みを受け止めただけで、特に何を言う訳でもなかった。
真行寺の好きな三洲の細い指がページを捲る。
と、その時。
「んっ…」
「あ…」
ページの端で三洲が、指先をほんの少し切ってしまう。
うっすら滲む小さな滴のような血をみた真行寺が、その手を取り、躊躇うことなく口に含んだ。甘噛みするように唇で挟み、舌の先で少し舐める。
ゆっくりと。
敏感な舌先が、指先から爪へと撫でるように。
そう言えば、三洲が昨日生徒会室で爪を切っていた事を思い出した。切られた爪は、一日たつと角が少しは取れているようで、鋭さはなく。そんなことも感じ取るように、真行寺の舌が三洲の指を舐めていく。
いつの間にか、三洲の膝に置かれてあった本は床へと落とされていた。
それを目の端に留め置き真行寺は、今は三洲の手から手首をそっと握りしめて、指を丹念に舐めていく。
親指を根元まで含み、舌先で吸い上げ。舐めながら引き出せば、指と指の間に舌を這わせる。
「ん…」
三洲が微かに震えた。
真行寺は舐めながら、そのままで三洲を見つめた。
三洲も見つめ返すだけ。
何も言葉はない。けれど、互いの瞳の奥に同じ情欲の焔を見る事ができた。
舐めていた指から唇を離す。
もう、ずっと離す時を待っていたように三洲は、真行寺の首の後ろに手をやると、そっと目を閉じた。
重ねられる唇は啄ばむような触れ合うだけの、そんな口づけを繰り返し。離れ。また、重ねるだけで、互いの唇の甘さを感じ合った。
柔らかな。
それだけを感じるだけで身体の芯が疼いてくる。
つと、真行寺が三洲から少し離れた。
立ちあがって、ドアに鍵をかけ、部屋の電気を消した。
暗くなった部屋を窓まで歩く足音を三洲が聞いていると、カーテンだけが開かれる。
今夜は月明かりが部屋をほんのり明るくしてくれる。
三洲の前にたった真行寺がスウェットの上を脱ぎ棄てるのを待って、三洲も上着を脱いだ。
少し屈んだ真行寺が、先程までの触れ合うだけのものから深く唇を合わせ、そのまま三洲の上に身体を乗せるようにしてベッドに沈んでいく。
深く合わせ、舌を絡ませ、互いに強く吸い上げ。
三洲から甘い吐息が漏れ始める。
真行寺の指が色素の薄いサラサラの髪を掬いあげ、そうして大切なものを扱うように頬に手を這わせていく。
三洲は零れ始めた自分の吐息に、驚くほどの艶やかな甘みが混ざっている事を、どこか遠くで聞いているような錯覚に陥っていく。
「しん…行寺…あぁ…ぁ…」
「アラタさん…」
続く好きと言う言葉は、再び合わされた唇から舌に乗せられるように伝えられる。
そうして、真行寺の唇が頬から首筋へと降りていく。
撫でるように舐め、跡が残らないように軽く吸い上げると、三洲が僅かに震える。と同時に口から零れる吐息。
「あ…はぁ…んん…」
自分のまだ拙い愛撫に感じている。真行寺はそれだけで煽られてしまう。
若い雄が首を擡げてきた事を痛いほど自覚するが、理性がまだ早いと告げる。
逸る気持ちを抑えて、少しだけ顔をあげて三洲を見つめた。
閉じていた瞼をあけ真行寺の瞳を見つめ返す。
言葉なんていらない。
そんなこと、声に出すだけ陳腐にしか聞こえない。
痛みが身体を貫けばいい。
それだけで良い。
いつかは癒える痛みも傷も。
身体の奥の。心の奥の深いところに残っていくものさえあれば、それだけでいい。
三洲はまた眼を閉じる。
真行寺の視線の熱さに身を焦がされたいと願いながら。
僅かな間のあと、真行寺の唇が三洲の鎖骨のあたりから胸の方へ。すこしづつ下がっていくその焦れったさに三洲の身体が、多分意識なく跳ねていくのが堪らなく、堪らなく。
先に真行寺がまだはいていたスウェットを脱いだ。
そうして、三洲のスウェットを下着ごと一気に脱がす。
互いの雄は既に屹立している。限界がもう目の前のように。
真行寺は躊躇うことなく三洲のものを口に含んだ。
滑った感触に、三洲は下肢からさぁっと全身を包み込むような痺れを伴う疼きを感じた。
意識は、まだ手元にある。
けれど、それも長くは持たない事を身体が知っている。
抗えない快感に身も心も預けるように、三洲は真行寺の髪に指を絡ませた。
二人だけの熱の籠った湿り気のある息遣いが部屋を満たしていく夜は、まだ始まったばかりだった。
真行寺×三洲で初エロ(*^。^*) で、今はこれが私の限界^^;
7月10日