ふと、目が覚めた。
窮屈ではない腕の中は温かく、三洲はその胸にそっと頬ずりをした。
その時。
僅かな身じろぎへの素直な反応だろう。真行寺の手に力が込められて、腰を引き寄せられる。
口元に笑みが浮かぶ。
何処にもいかないのに…
声にならない言葉を唇に乗せて、少しかさついている唇に伝える。
ベッドヘッドにある照明の薄明かりの中に浮かぶ真行寺は、ほんとうにあどけない幼さを湛えた寝顔をしている。
そんな彼の鼻すじを、そっと指で撫でてみた。
精悍な印象を与える見目も幼い寝顔も、他の誰のものでもない。ただ一人、自分だけのもの。
胸が、きゅっと切なく痛む。
それは多分、幸せだと感じられるからだと思う。
「喉が渇いたな…」
部屋に溶けていくような囁きは真行寺には聞こえていない。
ほっとして、ベッドから抜け出した。
近くにあった部屋着に手早く袖を通すが、寒さに身体が震えた。
カーテンを開けてみると、曇っている窓ガラスに、外の冷たさを教えられる。
もしやと思って窓ガラスを擦って良く見ると、雪が降っている。
窓を少し開けると、外気が流れ込んでくるが、三洲は構わずに外に目をやった。
街灯だけの暗闇の中を、白い雪がしんしんと降っている。
三洲は手を伸ばし、手の平に雪を感じてみた。
何かを伝えるように降る雪。
そうして、手の平の中で溶けていく。まるで伝え終えたように。
瞬間、何かが込み上げてくる。
泣きたくなるようなこの気持ちは何なのだろう。
「アラタさん…」
振り返って。
「ああ、すまん。起こしてしまったか」
「ううん、良いけど…、何してるの?」
「雪、降ってるから見てた」
「ああ、それで、こんなに寒いんだ…」
真行寺はくぐもった声で。半分寝ているからかもしれない。
布団の中から、おいでをしている。
三洲はそんな真行寺に呼ばれるように、もう雪を見るのを止めて窓を閉めた。
また、布団の中に入り込むと、逞しい腕に優しく抱きしめられる。
「こんなに冷たくなって…」
「喉が渇いてたんだ…」
「もう少し寝てから水飲もうよ…アラタさん…」
「そうだな…」
三洲の手を真行寺の大きな手が握り締める。
「手が冷たい…。温めてあげる…」
自分の頬に三洲の手をあてて、温もりを与える。
それで安心したのか、真行寺の瞼がゆっくり閉じられていく。
見ていた三洲もゆっくりと、また眠りの中に入っていった。
この腕の中は、なんて温かいんだろう。