人を好きになる事に、理屈なんて通用しない。
何故好きなのかと、何処が好きなのかと問われれば、答えはひとつしかない。
判らない。
判らないけれど、とても好きな人。
やはり、理屈ではないのだろう。
その姿を目の端に捉えれば、自然と目で追ってしまう。
気がつけば、いつも探している。何処にいても、見つけて欲しいとも思っている。
そうして見つけた時見つけられた時の、何ともいえない安心感がある。
人肌の温もりも教えてくれた。
この気持ちを言葉にして、声に出して伝えることはできないけれど、大切にしたい。
いつの間にか、自分にとってかけがえのない存在になっていたから。
「俺、今度お前のどこかに、俺の名前書いておこうかな」
やっと伝えても、そんな言葉しかかけられないけれど。それでも、精一杯の気持ちなんだと、腕をとり抱き寄せた。
――― 大きな背になったな…
林の中での想いが強く、ベッドの上で先にポロシャツを脱いだ。
真行寺を煽った訳ではないけれど、自分も触れ合いたいと心から思ったから。
二人、抱き寄せて抱きしめあって、何度も何度もキスをして。
高みは幾度もおとずれた。
そのたびに、腕に力がこもり、指先に力が入ってしまう。辛いからじゃない。身体に残る痛みが欲しいだけだ。心に灯る想いを、形にして残して欲しいだけだ。
上りつめた後の真行寺の若い性は、いつだって優しい。
その優しさに甘えて、ついねだってしまった。
離れた手。ベッドから降りるために、向けられた背中。
思い出した。
初めてその背に手を回した時、まだ幼い感触だった事を覚えている。何時の頃からか、そう言うのもなくなっていった。
意識し始めたら、真行寺の背は、大きく逞しく感じられるようになった。
今、その背が目の前にいる。
右の肩甲骨の上辺りに、小さな引っかき傷ができている。
共有する熱い時間の最中に、真行寺に言った言葉を思い出した訳ではないけれど、背に回した左手の人差し指で。爪先を少し立てたのだ。
背に残った所有のしるし。
他の誰のものでもない。自分だけのもの。
――― ああ…
湧き上がる愛しさに突き動かされるまま、そっと、その引っかき傷に口づけた。
瞬間、真行寺の小さな震えが伝わってきた。
「どうしたの?」
「ん?」
「何か飲みたいって、言ったじゃん」
「そうだったな」
「俺…、買いに行けないよ」
「そうだな…」
お互いの声が、また濡れ始めている。つい、笑みが零れる。
喉も渇いている。何か飲みたい。何か買ってきてほしい。真行寺にだけする願い事。
なのに、離れていかないで。どこにもいかないで。側にいて欲しい。
真行寺にだけ向ける願い事。
「もう一回、していい?」
「ああ、いいよ」
「アラタさん…」
重みを感じる。
また、その背に腕を回し抱き寄せる。
指を立て、爪先をあてる。
「ねえ…」
「なんだ?」
「辛かったら、爪立てて良いから…」
「判ってるよ…」
「いっぱい立てて、傷、つけて」
「真行寺…」
「ずっと、アラタさんのものだから」
判ったと頷いて、肩口に ちいさく歯を立てた。
それを合図のようにして、再び真行寺が入ってくる。二人で、また高みに上りつめる。
恋は落ちるものと、誰かが言っていた。
理屈でなく、打算もない。
落ちた先が、真行寺で良かった。
心地良い居場所が、真行寺で本当に良かった。
真行寺×三洲 『風と光と月と犬』の最後のお話。三洲がいつ、真行寺に痕をつけるのか。それはやっぱり、煽った後でしょと(*^_^*)
7月27日