終わらない夜



「アラタさん…あれ…」

 片手にミネラルウォーターのペットボトル、片手に氷の入ったガラスコップを持って寝室に入ってきた真行寺は、行儀が悪いのは承知で、足先でドアを閉めた。
 ベッドサイドテーブルに持ってきたものを置きながら、背中を向けて横になっている三洲を見つめた。
 その隣にそっと身体を忍び込ませ、頬を寄せるようにしてもう一度声を掛けた。

「アラタさん、寝ちゃったの?」

 微かに聞こえるのは寝息。
 互いに貪るほどに相手を求めたのは、まだ、先程の事。汗と放ったものとで汚れた身体を、バスルームで綺麗に流しあった後、三洲が喉が渇いたと言うので、真行寺が水を取りに行っていたのだ。
 起きて待っていると思っていた三洲が、やはり無理をさせたのだろう。日頃の疲れと相まって、寝てしまっている。
 身体の負担は、どうしても三洲の方が大きい。だから、できるだけ優しくしなければと頭では判っていても、どうにも歯止めが効かなくなってしまう。三洲を目の前にしてしまうと、自分の理性など小さなものでしかない。
 真行寺は申し訳なさで胸が痛んだ。

 掠れていた声
 水が飲みたかったろうに

 真行寺はガラスコップに入れてある氷を掴んで、指を冷たく湿らせた。その指で三洲の唇をそっと撫ぜてみた。
 冷たさに、無意識なのだろう。三洲の唇が開かれて、真行寺の指を少しだけ噛んだ。甘噛みするように歯を立て、そうして、舌先で湿った指を舐めてくる。

「アラタさんてば、煽るの上手いよね、俺の事…」

 目尻に柔らかな笑みを浮かべた真行寺は、応えるように三洲の肩口に唇をあてた。軽く吸い上げ、離し、また吸い上げる。
 薄明かりの中で、真行寺の付けた痕がうっすら見える。
 その痕に、また唇を寄せた時、三洲がゆっくりと真行寺の方に向き直った。
 重たそうな瞼が開けられる。

「アラタさん、水持ってきたよ…」
「……」
「冷えてなかったから、氷も持ってきたから」
「……い」
「何?」

 もっと良く聞こうと耳を寄せると、三洲がせがんでいた。
 真行寺は氷を一つ口に入れて、噛み砕き始めた。静かな部屋に広がる冷たい音。
 細かくなった氷を指で摘み、少しだけ三洲の口の中に入れてやる。
 まだ熱さが残っているだろう口の中で、細かな氷が解けていく心地よさにうっとりしている。
 薄く眼を開けた三洲の唇が、もっと欲しいと言っている。
 真行寺はまた一つ氷を噛み砕くと、今度は三洲に口づけた。舌先に噛み砕いた氷を乗せて、彼の舌に届ける。
 触れ合ったままで、冷たい氷の粒がとけていくのが伝わって。
 
 口づけしか交わしていないのに、頭を擡げてくるのは、まだ若い性。
 これ以上はダメだよと三洲から離れても、彼の唇が追いかけてくる。
 真行寺…もっと…
 冷たい氷が欲しいのか、真行寺の唇に触れたいのか。
 もどかしい三洲の仕草が、真行寺をさらに煽る。

「アラタさん…いいの?」

 触れ合うだけのキスを続けながら聞いても、返事はない。
 そのかわり、三洲の手が真行寺の首筋を撫で、肩から腕へと降りてくる頃には、口づけは深いものになっていた。
 差し入れられる舌は、もう氷で冷やされていた名残はなく熱を帯びてきている。
 ゆっくりと三洲を組みしきながら、真行寺は髪を梳いた。その手で頬を撫で、額に軽く口づける。
 そうして見つめた三洲の瞳に自分が映っている。
 息のかかるこんな近くで見る彼の、鼻の先に触れるだけの口づけを、頬に、首筋に。
 ゆうるりと首筋に唇を滑らせて、肩口の少し後ろに歯を立てる。
 震えた途端に跳ねる三洲の身体。

「声、聞かせて」

 身体は素直に感じてくれているのに、声を殺す三洲に真行寺がねだる。
 なのに、羞恥の渦に巻き込まれた三洲は声を出す事を、まだ堪えている。
 任せてよ、俺に。
 願いを込めて、また首筋に歯を立てる。歯を立てたところを吸い上げてもみる。そこが三洲の弱いところだと知っているから、尚も攻め続ける。
 残す痕は薄くと気を使いながら、さらに煽りたてるように口づけ、吸い、舌で舐め。

「あぁ…はぁ…も…もう…」

 甘い吐息が漏れ始めると、後はとめどなく艶やかな声が零れてくる。
 三洲のそんな声を聞きながら、真行寺は唇を鎖骨の辺りに滑らせる。
 さらに、口づけながら臍の辺りを舐め、ゆっくり下りていく。すでに三洲のモノは屹立していて、肌に当っていて。先走りの液で濡れているのが、だから判って、真行寺のモノも固くなっている。
 今度は無理はさせられない。
 真行寺は三洲のモノを口にふくむと、舌先で丹念に舐めあげた。
 口の奥まで飲み込み、裏筋を舌で舐めあげる。
 手も使いながら、ゆっくりゆっくり追い上げて。


「あ…はあぁぁぁ…、だめ…だ…しん…ぎょう…」

 感じる身体は隠せない。すべてを真行寺の前に曝け出してしまっているのだから。
 目の前が霞む。
 頭の中がぼんやりとしてくる。
 真行寺から与えられる快感が、あまりに柔らかくてじれったくて。
 すべてを包み込まれる頃には、きっと意識を手放している。
 手放した後に訪れる至福感を、今夜は何度も感じていたい。


 ずっとこのまま
 夜が続けば良いのに


多分、二人とも大学生になっている頃かな…^^;エロを書くって難しい…^^;
3月18日