甘い放課後



「んん…」

 吐息に艶やかな甘みが混ざりはじめれば、三洲の身体からは力が抜けている。プライドがそうさせるのか、真行寺からのキスには僅かな抵抗をしてみせる手が、今は彼のシャツのボタンを外している。
 二人掛けの長椅子に三洲を横たえさせ、負担にならないように覆いかぶさっていく。それでも、窮屈な体制には変わりなく、三洲は多分無意識に身体を動かしてしまう。それが、どんなに真行寺を煽るかまるで知っているように。

「アラタさん…」
「ん…んん…」

 瞼に、頬にキスをして、首筋へと唇を滑らせる。三洲のシャツからは、すでにネクタイは解かれて、ボタンも半分まで外されている。その間から真行寺の手が滑りこみ、素肌をまた知りつくそうとしている。
 その手をそっと止め、キスをねだられる様にみあげられる。

「どうして分かった、ここに…俺がいるって…」
「生徒会室に行ったら、ギイ先輩と野沢先輩がいて教えてくれたっす」
「そか…」



『すいません、アラタさんは?』
『何だ真行寺、まだ三洲の追っかけしてるのか。生憎、三洲はいないよ。さっき、書類の整理とかで第二科学準備室に行ったからな』
『あ、はい、了解っす』
『遅くなるって言ってたぞ』
『了解っす!』



「お前…」
「なに?」
「崎なんかに借りを作るな」
「ごめんなさい…だって…」

 叱られた子犬のようにシュンといているのも少しの間だけ。小さなキスを三洲の頬に。それから、鎖骨の辺りを軽く吸う。離れ。また、軽く吸いあげる。

「まあ、いいさ……あ…」
「アラタさん…ここ良い?」
「言うな…」
「好きだよ…アラタさん」
「お前…」

 見上げてくる三洲の目元は、薄く朱色に染まっている。真行寺が焦がれてやまない三洲の、きっと一番好きな表情かもしれない。思わず、目を瞠ってしまう。

「なに?」
「俺の事…好き…か?」
「大好き…大好きだよ…」
「ああ…」


 もっと言えよ 好きって
 もっと言ってくれ
 どうにもならないくらい 好きと言ってくれ


「今日のアラタさん、おしゃべりだよね…」
「うる…さい…」
「言ってよ、アラタさん」
「な…にを…」
「俺の事、好きって言って」
「そんな…こと」
「聞かせてよ…俺にも…」


 言えないくらい意地っ張りだって知ってる
 ほんとは言いたいことも知ってる
 知ってるよ


「もっと…キスさせて…」
「してる…だろ…」

 啄ばむ様なキスを何度もくりかえす。
 息が上がって、そろそろ目を閉じていたい。真行寺に委ねてしまいたい。何もかも、わからなくなってしまいたい。

「いいよ…」
「なに…が?」
「俺に任せてよ…」
「なに…言って…」
「もう、しゃべんないで…」
「真行寺…」
「俺に任せて…」
「おまえ…」
「俺に…」

 見上げた三洲は、そこに、大人になりつつある真行寺の笑みを見つけた。
 階段を上りはじめた少年の、確かな成長が見て取れた。
 すべてを真行寺に委ねてもいいのだと、そう思えた安心感に、ゆっくりと目を閉じた。
 真行寺の手や唇は、そんな三洲を捉えて離さない。

 二人だけの放課後。
 窮屈な長椅子に横たわる二人の時間は、まだ始まったばかりだった。


真行寺×三洲。
2月17日