あたためてあげる



 右腕の痺れに目を覚ました。
 ゆっくり瞼を開ければ、色素の少し薄い髪が目に映る。そこに鼻をうずめて確かめてみる。三洲の匂いを全身に沁み渡らせるように。
 互いの想いのままに抱き合った後、真行寺は三洲を後ろから抱きしめるようにして眠った。三洲が強請った訳ではないけれど、腕枕にと右腕に誘うように髪を梳くと、直ぐに心地良い寝息をたてたのだ。安心できる場所になってくれたのだと、そう思った。退寮日の前夜、イヴの夜を一緒に過ごしてくれる三洲のそんな寝息を聞きながら、真行寺も眠りに着いた。
 あれから数時間。
 部屋は暖房はついてはいるけれど、しんとする寒さを感じる。

「雪でも積もったのかな…」

 三洲の肩を撫でながら、小さく囁く。僅かに身動ぎする背に、チュッとキスを落とした。
 祠堂の冬の朝は遅い。
 遅い故、明けぬうちに自室に戻らなければならない。三洲の同室者も、もうすぐ戻ってくるはずである。



「アラタさん…」
「ん…」
「まだ早いのに起こしちゃってゴメンね…」
「…いや、いいさ…」

 まだ眠い目を擦りながら、三洲が寝返りを打った。

「アラタさん…、こっち向いてくれてアリガト」
「…」
「何か言ってよ」
「朝から盛んだな」
「キスぐらい許してよ。せっかく…」
「はいはい…」

 そして、またキスをして。

「俺さ、部屋帰るね。葉山さんも、もうすぐ戻って来そうだし」
「そうだな、早く戻れ…」
「そう言うところは相変わらずだね、アラタサンは」
「…」
「あのね」
「ん?」
「机の上にクリスマスのプレゼント置いてるから、後で開けてみて」
「ああ、何か置いていたな。俺は、だけど…」
「知ってるよ、忙しかったもんね。アラタさんが受け取ってくれるのが、俺へのプレゼントになるから」
「そか…」
「じゃ、後でね。今日は一緒に帰れるね」
「出血大サービス…」

 くすくす笑っている三洲は、とても綺麗だと思った。
 額にキスをして、素肌に布団を被っている三洲を気遣うようにベッドから降りた。途端に、身体じゅうが寒くなる。脱ぎ散らかした服を着込むと、急いでカーテンを開けてみた。

「あ、やっぱり。雪が積もってる」
「バスは走れそうか」
「積もってるけど、それは大丈夫だと思うよ」
「それより、早く戻れよ」
「もう、ホワイト・クリスマスなのになぁ」

 真行寺は頬を膨らませながら、270号室を後にした。





「葉山、先に出るよ」
「うん、三洲くん。僕、もう少しかかるから」
「崎と一緒に帰るのか?」
「そう…、て言うか、赤池くんも一緒だよ」
「はいはい」
「それより、三洲くんがしてるマフラー、新しいよね」
「葉山にしては目敏いな」
「むむ、失礼な三洲くん」
「先週、麓に降りて買ってきたんだ」
「忙しそうにしてたのに?」
「俺は抜け目ないからね」
「三洲くんらしいね」
「そう言う訳で、お先。頑張れよ、葉山」
「三洲くんも頑張って」

 葉山託生の声を背に聞いて、三洲は部屋から出ていった。
 昨夜、真行寺が部屋に入ってきた時、何か包み紙のようなものを持っていたのは知っていた。ただ、真行寺は何も言わなかったし、自分も何も言わなかった。寒さを二人で理由にして、ひたすら抱き合っていた。
 眠りに着いたのは、随分遅い時間だったように思う。その時の事が曖昧なのは、真行寺の腕枕がひどく心地良かったからだ。
 真行寺の腕の温もり。背に感じる真行寺の肌の温もり。
 すべてに包まれているような感覚は、ひどく安心できるものだった。
 そんな真行寺からのプレゼント。
 忙しかった自分は、麓に降りて息抜きする間も惜しむように受験勉強をしていた。真行寺は、その事をよく知っている。だからかもしれない。贈られたものを手に取った時、肌触りがとても温かかった。深い蒼色も落ち着いていて、良い感じだ。

『 アラタさんへ
  受験勉強頑張ってください。
  しばらくアラタさんは学校に来ないよね。
  これからもっと寒くなるのに、側にいてあげられないから。
  温めてあげられないから、マフラーと手袋を贈ります。
  俺だと思って、いつも側に置いて。
  兼満より                           』

 一緒にあった手紙を読んだ時には思わず笑ってしまい、それと同時に熱いものが込み上げてきた事は、誰にも言う事はない。
 言葉にして言わないけれど、でも、判り合えると思う。
 こうして、贈られたマフラーを首に巻き、手袋をした手を振れば、バス停で待つ真行寺が満面に笑顔を浮かべて両手を振ってくれているのだから。 


真行寺×三洲。今年はちょっと早く書けたクリスマスのお話です(^^)
12月20日