満ち潮




腰を 殊のほか強く引かれた
振り返って見れば直ぐそこに 欲情した瞳を持つ彼の唇があった

ずっと待っていた 素直になれるこの瞬間を
もどかしいまでの時を経て垣根を飛び越える 震える指先と一緒に

重ねた唇は 何を待つまでもなく
互いの舌を絡み合わせて ただひたすらに強く

柔らかいくせに強引な舌に これから翻弄される自分がいる

薄れ行く理性が最後にみたものは
甘い吐息に絡みつかれた自分自身だったのかもしれない





手の平に爪を立て 小さな円を描かれる
ゆっくり ゆっくりと
それがどんなにささやかな刺激であっても 身体の奥の 奥深い底に満ちていく
痺れるような快感であることを 隠しようもないほどに知られてしまっている

薄明かりの中に見えるだろう
唇が
瞼が
震えてしまっている事に

どうか焦らさないで
もっと強い刺激をこの身体に残してくれ





薄明かりの下で愛されて
すべてを知る真行寺の手は
羞恥に染まる肌に まるで真綿のように触れてくる

甘い痺れが吐息になって零れても
強く追い込まれないじれったさに 跳ねるしかない身体が堪らない

ああ…どうにかしてくれ

己を捨てた哀願に応えてくれる彼の欲情は
痛みだけでないものを奥深くに刻みつけていく

そうして満たされていく
満たされていく





甘噛みされた耳朶に 小さな疼きが残る
余韻のように薄くなる間もなく 濡れた声が聞こえてくる
彼の声が


アラタさん…


呼ばれる名には どこまでも甘い響きしかなく
真摯な気持ちだけを伝えてくれる


アラタさん…


ずっと 聞かせてくれ
いつまでも 聞かせていてくれ

身体を包み 心の奥に広がる声が
気が遠くなるその時に 手繰り寄せられる
ただ一つの真実なのだから


真行寺×三洲。拍手お礼文です。