Banane de chocolat le soir −『 チョコバナナはお好きですか? -1-』−




涙に濡れた睫毛が影を落とす
切なげに零された吐息は どこまでも甘く
捉えられて もう離れることなんてできない貴方に
密やかに誓う 愛の言葉を捧げよう

愛してる

そっとキスして
そっとキスして―――――

そっと――――


目が覚めたらいつもの通り、しんと冷えた部屋に一人きりだった。
情事の痕の残るベッドで、ここに居ない貴方をかき抱く。

まだ足りない。
全然足りない。
いくら抱いても貴方を手に入れたという気持ちにはほど遠い。
全て俺の物にしたい。
ここもあそこも、どこもすべて。

俺がずっと追いかけているんだから、しょうがないけどさ。
貴方も俺のことを欲しいと思ってくれないかな。

俺の腕のなか、貴方が漏らした吐息や声がまざまざと蘇ってくる。
俺はぶるっと身体を震わせると、貴方を思い出しながら、そっと手を動かした。




我慢の限界か、授業中にも拘らず、ふぁ〜っと欠伸がでてしまった。
昨夜は久しぶりのデート(アラタさん的には違うけど)で楽しい夜を過ごしたのに、何時もどおりに寝てしまってダメな俺。目が覚めた後の置いてけぼりのベッドの上で、思い出しながらのアレが良くなかったようだ。

アラタさんてば、相変わらずに冷たいんだよなぁ。ちょっとくらい声かけてくれたって良いものを。
俺の事、少しも気にならないのかな。それとも、会ってくれるんだしね、気にしてくれてるのかな。
そうだと良いな…

そんな事をつらつら考えていたら、授業はいつの間にか終わっていた。相当の眠気に襲われていたらしい。
隣の席から、

「真行寺、眠そうだな」
「昨夜ね、眠れなかったから」
「快食・快眠な真行寺にしちゃ珍しいよな」
「そういう時もあるって事です」

教科書やノートを片づけていると、前の席のヤツが声をかけてきた。

「次の授業、家庭科だろ?今日の課題、知ってるか?」
「確か”出店のお菓子を作ってみよう”だっけ?」
「そうなんだよ〜」
「何作るんだろう?りんご飴とかかな」
「チョコバナナも簡単にできそうだしな」

わらわらとみんなが集まってくる。

「そんなに作ったって、誰が食べるんだ?俺達だけじゃ食べきれないんじゃ…」
「ん―――、生徒会室とか、職員室とかに持ってくのかな?」
「食べて欲しい先輩がいたら、渡せるんだけどな」
「お前〜、いるのかよ〜」
「真行寺じゃないし〜。真行寺はアレだろ?生徒会室に差し入れだよな」
「真行寺はそうか、差し入れて、また、生徒会長に無謀なアタックするのか?」
「や、そんな事は……」


生徒会室、生徒会室、生徒会室…
アラタさんに食べてもらいたいってか、俺は。
俺としては、アラタさんを食べたいって言うか…。
いやいやいや、今はそう言うのじゃなくて、俺が作ったものをアラタさんにだよ。

しかし、考える。
ひたすら考える。

あの三洲が、人前で自分の作ったものを食べてくれるだろうか。
否。
それは絶対にあり得ないと断言できる。
断言できる自分と言うものも、悲しいものがある。

ただ、悲しいものがあるからと言って、諦める選択肢はないのが正直なところだ。
作りたいものを作り、渡したいものを渡せば良い。
願いが通じればそれで良いし、通じないからと言って止められるものでもない。
その後の事は誰にも判らない。もしかしたら、あの三洲だって、ちょっとは心動かされるかもしれないのだから。

希望を持て、自分。

それにしても。
恋する男は大変だなと、そんな事を思いながら、家庭科の授業に向かった。


うおー、今日の家庭科の授業は楽しいぜ!
学校全体が祭りに向かって気分が高揚しているのか。
すっかりお祭り気分だぁ。

今日の授業のテーマは出店のお菓子だけれど、先生としてはそれと同時に一人暮らしになっても自炊できるようにと、調理に親しむという意図があるんだそうだ。
確かにお菓子に釣られて、全員の授業への集中度は半端ない!!
今日は、りんご飴とチョコバナナとふかしじゃがバターと磯辺焼き。

俺は普段両親にほっぽって置かれているから、調理はお手の物だ。
ささっとジャガイモをこすって、十字に切れ込みを入れ、蒸し器に並べる。
次に磯辺焼きだ。

ああっ!無心に料理していたら、りんご飴とチョコバナナの一番楽しい作るところが終わってしまいそうだ。
「 ほい、真行寺、お前のチョコバナナ。飾り付けはあっちのテーブル 」
チョ、チョコバナナ……って………俺だけじゃないよな?
変なこと考える奴。
いけない、いけない、つい、つい、いや、いや、あーーっ、やばい。
ア、アラタさん、俺が作ったチョコバナナ、どうだろう。あげてみようか?
アラタさんが俺のチョコバナナをパクって咥えたりして……いえいえ、すんません、アラタさん、チョコバナナっすから!
ぐあーっ!照れるー!

無邪気にチョコバナナを股間に付けてふざけ回っている同級生の中に、俺のように葛藤しているやつも絶対にいるはずだ。
チョコレートコーティングされて、ツヤツヤ光っているチョコバナナの可愛い姿。
いやー、先生、何故チョコバナナを選んだのですか?
ふかしたての熱々のジャガイモにバターをたっぷりのせて、これは皆、瞬く間に完食。
磯辺焼きもお醤油のいい匂い……お腹の空いた男子高校生には至福の時間。
やっぱり、先生!ありがとうっす!

騒がしい調理実習室の後ろのドアがそーっと開いた。顔を覗かせたのは3年生だった。
「おい、このいい匂いはなんだ ?」1階の階段長の矢倉先輩だ!
矢倉先輩は人気者だから、すぐに大勢に取り囲まれていたが、ぐるりと見回した矢倉先輩の目がチョコバナナを見た途端、ギアチェンジをしてテンションが上がったのがわかった。
「おいー、いい物作ってるな。少し分けてくれるかなぁ?」「もちろんです! 」
「まず、俺だろ? ギイは絶対だし。あと泉にもやるか。野沢はー、あいつにもらうだろうし」
矢倉先輩を見つめていたら、目がバッチリ合ってしまった。
「真行寺、麗しの生徒会長にはお前から差し入れだな。 頑張れよ」
矢倉先輩に皆の前でそんなんことを言われ、顔がかぁっと熱くなった。
もらってくれるだろうか………。
「三洲にさ、あなたのチョコバナナになりたいですってお願いしてみろよ 」
そう言って、何故か俺にパチンとウィンクをして、矢倉先輩はたくさんの捧げ物と数本のチョコバナナを持って、するりと教室から出て行った。
矢倉先輩の残した言葉で、俺がまたスッゲーからかわれるのがわかってるくせに!

「真行寺ー、いっつもあんなに冷たくされてんのに、まだ持って行く気ー?」
「三洲先輩はさー、穏やかだからお前がしつこくしても優しいけどさ 」
「会長ってさ、チョコバナナとかそういう下ネタ嫌いなんじゃないかな」
「総会の時とか、壇上に立ってる姿、キレーだもんなぁ」
「お前さ、先輩に下ネタなんか振るなよ 」
「いつか、うるさいってキレられるかもしんないぞ」

あー、うるせ、うるせえ〜。余計なお世話だっつーの。
あの人、すっげえエロいんだから。
それに、もうとっくに、最初っからキレられてんの。優しいことなんてあったっけ?
足蹴にされてんのよ、俺。

ーーーでも、優しいこともあんだよな。ほんのたまーにだけど。
昨日の今日だから、これ、持って行ったらまた、冷たくされるかな。
囃し立てられながらも、俺はチョコバナナを包んで、大事に抱えた。




合言葉 は『 クリスマスにチョコバナナ エロを ! 』

突然湧いて出た、チョコバナナ企画。
チョコバナナをテーマにリレー小説しませんか?とのお誘いに、優希さんが二つ返事でノッてくださって、真三洲チームのリレー小説が始動しました。
「 果たしてチョコバナナでお話が書けるだろうか? 」
「 真三洲だと明るいギャグエロは難しいかも。どうしても悲哀を帯びてしまう……… 」
と、悩みながら( 笑 )
ギイタクチームの方には、チョコバナナで悲哀なんてと、一笑にふされましたけど……。

お祭りのように楽しい雰囲気でくすくす、にやにやしながら仕上げたリレー小説。
病みつきになりそう〜!!
次回があるといいな。どなたか一緒にやりましょう〜!
……皆様に良いクリスマスを。
そして真三洲の二人にも幸せなクリスマスとなりますように。

そして、キャプションでもついリレーしてしまう私たち。
優希さん、続きをお願いします。 エスエヌ

***

お誘い頂かなければ、きっと書く事などなかった「 チョコバナナでエロを! 」
このような素敵で楽しい企画にお誘い下さって、有難うございました!

エスエヌさんと二人で始めたリレー小説です。
二人で交互に書きましたが、案外、どちらが書いたのかは判りにくくなっていますね。
さて、誰が書き始めて、どこを書きながら、どちらが締めたのかお判りになられるでしょうか?
うふふ。ちょっと判りにくいところがリレーの醍醐味ですね。
ちょっぴりエッチでドキドキなお話を、どうぞ、お楽しみくださいませ。

次の機会には、はい、そこのあなた!ご一緒しませんか?
一緒に楽しみましょう。
ではでは、真行寺と三洲共々、皆様、良いクリスマスを(^^)    優希

2014年12月13日