「あっあっ…あぁ…あっ…」
しとどに濡れているであろう自身のモノが真行寺の腹で擦られて、気持ちよくて堪らない。
喘ぐ声に熱がこもっていくのを遠くに感じながら、進められる腰に呼応するように自身の腰も振れている。とめどなく与えられるものが、いつしか痛みではないものに変わる頃には、部屋の中は互いの息づかいの湿った空気で満たされていた。
真行寺の突きが、ひと際強くなる。と、同時に背中を快感が駆け上がり、息をつめた後には熱い吐息が零れてくる。
身体の奥に熱を感じ、それに刺激されるように自身の精も迸らせた。
真行寺の精は、いつだって熱い。
「はあぁ…」
胸の奥を至福感がふわぁっと広がるのを待って零した溜息を、まるで拾うように真行寺に口づけされる。
チュッと音を立てて唇が離れると、まだ少し息の整わない声がおりてきた。
「…落ち着いた?」
「ああ、少しは…な」
「良かった…」
ほっとしたような声音の真行寺は、三洲の身体を労わる様にゆっくりと彼の中から自身のものを抜いていった。僅かに眉間に皺を寄せた三洲の頬にキスを一つ落としながら、側に置いてあったタオルをとって身体の汚れを拭いはじめる。
真行寺のしてくれるままに身体を預け、三洲は目を閉じた。
いつもそれは、突然やってくる。
どんなに気をつけていようが、抑制剤を飲んでいようが関係なくやってくる。
ふとした拍子に、何の前触れもなく。
今回がそうだった。
早めの夕食をとろうと食堂で、トレイを持って座れるところを探していた。窓際にちょうど空いた席を見つけて、そちらに向かおうとしていた時だった。
肩をポンと叩かれたのだ。
意識は窓際の席と窓の外に向いていて、後ろから誰かに呼び止められるとは思ってもいなかった。軽い感じだったから、余計にかもしれない。
身構えていなかった分、身体がビクっと反応してしまった。
「おっと、三洲、驚かせたか?」
「何でもないが…なんだお前か」
振り向いてみれば、隣のクラスの生徒だった。
咄嗟の反応などまるでなかったように普段通りの笑顔はできた。
「お前も夕食?早いな。部活は?」
「今日は休み。三洲こそ早いじゃないか。この時間なら、いつもは生徒会室なんじゃ?」
「いつもはね。今日はポッカリ時間があいたんだ、珍しく。そう言う時くらいは早く食べようと思ってね」
にっこり笑えば、相手はそれ以上何も言ってこない。じゃあ、と言いながら踵を返し、カウンターに向かっていった。
それを見届けて、目指す席へ歩いて行った。
一瞬跳ねあがった動悸は、今は少し落ち着いたが、それでも脇の下に汗が噴き出たのを感じた。喉が渇く。異常に渇く。下唇を噛みしめて、湧き上がりそうになるものを押しとどめる。
けれど、席についても一度ざわつき始めた身体の奥のものは治まりそうにもなかった。
――― 無理か…
このまま食堂にいても、落ち着いて食事などできないだろう。じっとしていようと思うのに、きっとソワソワしてしまうに違いないのだ。
お茶を一口飲んで喉を潤すと、夕食は諦めて食堂を後にした。
270号室まで戻る途中でクラスメイトに出会うと、不思議な顔をされ、
「どうした、三洲?顔が赤いんじゃ?」
「風邪、引いたかもな」
気をつけてと背中に声を掛けられながら足早に部屋に戻ると、そのままベッドに突っ伏した。
ヒートが、始まったのだ。
たったあれだけの事で始まってしまうとは。無意識だったからこそ、注意していなければいけなかったのに。
身体の奥から浸食してくるものがある。
ざわざわと、何かに焦がされるように、無性にじれったくて堪らない。
布団を頭まで被り、湧き上がってくる熱をゆっくり息を吐くことでやり過ごすが、これくらいではどうにもならない事は判ってはいても、どうしようもなかった。
――― 真行寺…!
「…真行寺…真行寺…」
つい名前を呼んでしまう。
後から後から湧いてくるじれったい熱をどうにかして欲しくて、無駄だと知りつつも名前を呼ばずにはいられなかった。
どれくらいそうしていたろうか、部屋のドアをノックする、控えめな音が聞こえてきた。
同室者ならドアをノックなどしないだろうに、誰だろうか?
待ち人ならばと思うものの、もし、そうでなかったなら、こんな状態でドアを開けるわけにはいかない。息をつめて尚も聞いていると、そっとドアの開く音がした。それと一緒に、
「アラタさん…」
その声を待っていた。
「真行寺、か…」
不思議な事に、真行寺の声を聞いただけで、身体の奥のざわつきが少し落ち着く。思わず、ほぉっと息を吐いた。
側に来た真行寺が、一度は躊躇したようだったが、布団をめくった事も気にならなかった。随分と切羽詰まっていたのだと思う。
「こんな時間に、タイミングが良いな…」
「うん、たまたまだよ。でも、良かった、寮に戻ってきて。匂いがしたんだ…」
真行寺の方に手を伸ばすと、握り返してくれる。この手にしか、この身体は預けられないのだ。
同室者がいつ戻ってくかもしれない不安には目を瞑り、身体に燻ぶる熱をどうにかしてほしくて、真行寺に口付けた。途端に強く吸われる。口腔内を舐めまわされ、舌を絡めて吸いあげられれば、燻ぶる熱とは別の、新たな熱が生まれるのを感じる。
もっと。
もっと強く。
「んふ…ふう…」
唇が離れると、自身でもわかるほどに、零れた吐息には熱が篭っていた。
「…部活は?」
「うん…行かなきゃだけど、でも、アラタさん置いては行けないよ」
「お前は、行った方が良い。俺はもう寝てるから大丈夫だから…」
「大丈夫って…、そんな顔して言ってもダメだよ」
「ん?」
「目がまだ潤んでるし、匂いもきつくなってるから心配…」
どんな顔をしているとの自覚はないが、真行寺の言うとおりなのだろうと思う。身体の熱が、まだ残っているからだ。
唇を噛むしかなく。
「ちょっと待ってて」
「何する気だ」
真行寺がドアの鍵を閉めに行った。
その先の事に思いを巡らせて、身体がぶるっと震える。
こんな、まだ早いだろう時間に、しかも何時もの空き部屋ではなく自室でだ。まるで、昼日中の明るさの中で、裸を見られてしまうような恥ずかしさが込み上げてくる。
いけない事だと、駄目だと思うものの、抱かれる期待のほうが大きくて、どうにもならなくなってくる。
手が真行寺を求めてしまう。
唇が、真行寺の唇に触れたがっている。熱の篭る吐息を欲している。
熱くて堪らない身体を、真行寺に晒し、あずけた。
あんなに熱かった身体が、今は落ち着いている。それが判るのだろう、身体を拭ってくれた真行寺が、ゆっくりと布団を被せてくれる。
目を開けてみれば、安心したように微笑んでいる。
「窓も開けておくからね。後で、閉めてよ」
「ああ…」
「あんまり時間かけられずに、ごめんね。痛くなかった?」
「…大丈夫…」
「少し汗かいて良かった。でも、どうしよう、今夜、また会ったほうが良いよね」
「お前は…大丈夫なのか?」
「心配しないで、アラタさんこそ大丈夫なの?」
「夜までなら、何とか持つと思う…」
良かったと、小さく囁く声と一緒に、髪を梳かれる。
この手にもう一度抱かれる。抱きしめられて、真行寺の熱いモノで突かれれば、身体の奥に燻っているじれったい熱も、きっと静まるだろう。
つがいの相手が真行寺で良かったと、心から思えた。
心地良い疲れが波のように押し寄せてきて、波間でゆらゆら揺れるように、眠りの中に入っていった。
今夜の期待を夢に連れて、眠りに入っていった。
真行寺×三洲で、初オメガバース
オメガバースについては、pixivにて検索してみてくださいね。
2015年12月26日にpixivへアップ。